福井県
かつて帝に食べ物を供することが許された御食国と呼ばれた福井県若狭。肌寒さを感じる晩秋の頃より「若狭かれい(標準和名ヤナギムシカレイ)」が市場に出回りはじめます。日本近海だけでも40種近くあるカレイですが、その中でも絶品とされ、毎年皇室にも献上されています。
その美味しさは古くから知られていて、江戸時代の書物で全国各地の名産品を集めた「日本山海名産図会(ずえ)」では次のように紹介されています。「淡乾の品多しとはいえども是天下の出類、雲上の珍美ともいうべし」と、最上級の賛辞を与えられています。
カレイは淡泊で水分が多いので、塩をして天日に干すことで身が締まって美味しさが増します。作り方は、新鮮な若狭かれいに淡塩を施し、串に刺して、一晩日陰干しにするという単純なものです。寒風でさっと干し上げるのがコツで、日によっては半日で仕上げるときもあるそうです。生暖かい風では美味しくはなりません。底びき網漁が始まると、魚屋などの軒先に吊るされる若狭かれいの姿が、冬の訪れを告げる風物詩となっています。生乾きで柔らかいのが美味。軽くあぶって食するのが一般です。
地元では「笹がれい」または「甘がれい」とも呼ばれ、上品な身の甘さが格別です。特に秋から冬にかけての産卵前のものは身も厚く、脂ものって特に美味しくなります。一夜干しされた子持ちの「若狭かれい」は、ピンク色の卵巣が透けてみえて、姿も美しく、お歳暮など贈答用としても珍重されています。美味しいのはもちろんのこと、身の骨離れもよく食べやすいので、魚食を進める上でも、重宝な魚です。